模型制覇




2012.5.9

アウドムラ編(2)
「たかが収縮、されど収縮」


さて、申し訳ないのですが、ブルースさんの質問は少し待って頂いて、今日は前回注目したポイントについて原型の写真をから始めましょう。

アウドムラ1

一見そのようには見えませんがこれが原型となったアウドムラです。電撃誌上でフルスクラッチ作例として発表の後、
構造的な部分を若干改修してガレージキット原型となりました。
その後縁あって他社ムックに収録するため、グレー一色だった原型に再び塗装を施した状態です。

アウドムラ2-1 アウドムラ2-2 アウドムラ2-3

正面から見ても一見分割できるようには見えませんが、このように第2エンジンナセルがロック機構を持っているので、
これを外してしまえば簡単に内翼、外翼、サブブリッジ部分に分割できます。
これらの機構は、もちろん原型製作上大変便利です。塗装の際もマスキングをしないで済むなど大変な効果があります。
それらの効果を期待するためには、完成時にも接着をせずに済むくらいの、はめ込み強度がある事が大前提であり、
いかにキチッとはめられ、かつ着脱の際に破損しないパーツ強度を持っているかが重要なポイントになります。

さらに一方でこの「着脱出来る」ということはレジンキットの原型としても非常に重要なポイントとなるのです。

レジン

御存知の方もいらっしゃると思いますが、レジンはA,B二種類の液体を混合、反応させる事によって急速に硬化します。
しかし、乾燥硬化(*1)と違い、溶剤分は内包したまま結合硬化するので、硬化直後から、数年後の完全乾燥硬化までじわりじわりと収縮するのです。
混合直後は硬化反応により発熱するため、そのタイミングでかなりの溶剤分が飛び、急速に収縮します。
つまりシリコン型から外す段階で既に数%収縮しているのです。その後はお湯に浸ける等(*2)して暖めない限り、それほど急激な収縮はありませんが、
購入後数年経って開封してみるなどの場合、さらに数ミリの収縮が見られる場合もあります。

アウドムラ3

このパーツはだいたい5センチ×7センチ厚さ1センチの、初代組キットでは中間サイズのパーツですが
御覧のように1.5ミリ程収縮しています。

硬化反応による発熱量は、混合液の質量、つまりはパーツの質量に比例して大きくなります。
大きいパーツほど高く発熱し、多くの溶剤分が抜けるため大きく収縮する、が、細かいパーツでは、
発熱量もたかが知れているため、さほど収縮しない、という事です。

アウドムラ4-1 アウドムラ4-2

左の写真はそれぞれ1.5センチ、4センチくらいの薄い翼パーツ。御覧の通りほとんど原型とのサイズ差は出ていません。
このことからも、質量の小さいものはほとんど影響を受けないという事が解ります。
極端に平たいものも部分当たりの質量が小さくなるため、更に影響を受けにくいという事です。
しかし右写真のネェルアーガマ艦首パーツ全長18センチ、下が原型、上がレジンパーツです。
基部がそこそこえぐられていて質量はそれほどでもない筈ですが、長さで4ミリ近く縮んでいます。
この例を見ても解るように、板状や、肉の薄い箱状のものは比較的収縮しにくく、質量自体は小さくても棒状のものなど長さがあるパーツの場合は、
長さに対して顕著に収縮する、といえるでしょう。

ナスカ

逆に最も収縮を激しく受けるのは、球や立方体といった表面積に対し質量が大きいもの。写真のパーツはナスカVer1のエンジン部分ですが、
このパーツが過去に製作したパーツ中最大の収縮を起こしました。右がキットパーツ左が原型ですが、
見るからに一回り程小さくなっているのが解ると思います。このくらい収縮してしまうと、他のパーツとの整合がかなり狂ってしまい、
プラ板を挟む等の荒技を駆使しなくては対応出来ません。結局Ver2では上部の平面部分を大きくえぐり、
質量を2〜30%減らす事で対応、結果は良好でした。

イラスト1

これらの事から導き出される結論は、過去のガレージキットのように巨大な本体に細かいパーツを取り付ける、というシステムでは
パーツによって収縮率の差が大きくなるため、パーツ同士が上手く接合できず、組み立てにくくなる、ということです。
最も単純な解決策は、「パーツ同士の質量差を出来るだけ少なくする」と言う事であり、
全てのパーツがプラモデルの標準的なパーツに近い形状、サイズであれば理想的なわけです。
さすがにそこまでの分割には無理があるものの、初代組ガレージキットが一見不要と思われる部分まで分割されているのは収縮対策なのです。

もちろん、その場合にはパーツの組み合わせ部分が増えるという副作用が発生します。
レジンキットの場合、前回も説明したように溶剤系接着剤が使用出来ず、シアノアクリレート系、エポキシ樹脂系などのアンカー効果型接着剤(*3)を
使用しなければなりません。どちらも反応硬化型接着剤なので、スケールプラモデルのように、状態を見ながら時間をかけて微妙な調整をし、
翌日に硬化、というわけにはいきません。硬化してしまうともう調整は不可、たとえ強引に剥がしたとしても硬化した接着剤を綺麗に除去しなくてはなりません。
そのため、バンダイ方式にならい、各パーツをダボによってはめ込む方式が必要になるわけです。

さてここまで説明すれば、前回のポイントが何であったかはもうお解りの事と思います。

aiba3

そう!翼基部にあったダボ穴部分、ここをブルースさんがどのように処理したか?が重要だったのです。
残念ながら送って頂いた写真では、脱着機構までは判別出来ません。しかしポリパテ様のものでなにがしかの処理を行っているのは明白です。
是非、この部分の処理についてブルースさんに追加の写真を送って頂きたいところです。


*1
乾燥硬化とは、溶剤によって溶解している樹脂などから溶剤分が揮発する事によって、結果的に固体となるタイプの硬化で
プラモデル用の溶剤系接着剤や、一般的な塗料、墨汁などもこのタイプの硬化と言える。乾燥硬化中には著しく容積が減るが、
完全乾燥硬化後はほとんど経年変化を起こさない。
一方、結合硬化は主剤と硬化剤を混合させる事により、分子が結合し、急速に硬度が高まるタイプの硬化。
代表的な例は瞬間接着剤や、ポリパテ、レジンがある。このタイプの硬化は硬化後も溶剤臭がする事からも明らかなように
溶剤乾燥を伴わない。つまり硬化後から乾燥硬化が始まるので結果として経年変化が大きくなる。

*2
「歪んだレジンパーツはお湯に浸けて直す」とよく言われているが、この際には急速に熱せられたレジンから大量の溶剤分が抜けるため、
大幅な収縮が起こる。そのためパーツによってはますます組みにくくなる事があるので注意!

*3
非溶剤型接着剤の総称。模型業界以外で使用される接着剤はほとんどがこのタイプであり、瞬間接着剤、エポキシ系接着剤など
が全て含まれる。広い意味ではやまと糊も抵抗接着である。
ちなみに「シアノアクリレート系接着剤」とは瞬間接着剤の総称。プラモ工作法大全 P36他参照。




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